第1回目となる今回お話を伺うのは、札幌市環境局の佐竹輝洋様です。
まず、事前に用意した6つの質問にお答えいただき、その後、質疑応答や意見交流を行いました。
その記録を以下に記しますので、ぜひご覧ください。
「世の中の問題がグローバル化してきている。」
Q1.世の中で問題だと感じていることをお聞かせください。
佐竹さん:貧困問題に限らず、気候変動、生物多様性、海洋プラスチック問題など、世の中の課題が急速に悪化していることが大きな課題であると考えています。しかも、それらの問題が、一昔前は一国、もしくは地域の問題であったのが、現在はグローバル化してきています。社会の国際化によって、利便性が向上した一方で、先進国の人たちが購入するもの、食べ物、サービスが、まったく違う国の人々に悪影響を及ぼしてしまうということが起きているのです。
逆に、良くなっていることもあって、極度の貧困(1日1.9米ドル以下)で暮らす人たちの生活は、ある程度改善されてきているという一面もあります。ただ、それが根本的な解決になっているかというとそうではありません。我々、先進国に住んでいる人たち一人一人が自覚を持つと同時に、企業や自治体、国という大きな単位で取り組んでいくことが、世界の課題解決にとって、重要なことであると思っています。
Q2. 事業内容とフェアトレードとの関係性についてお聞かせください。
佐竹さん:札幌市環境局では、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に向けて積極的に取り組んでおり、2018年には、札幌市が「SDGs未来都市」にも選定されました。また、選定後、札幌市としてどのように活動していくかということをまとめた「札幌市SDGs未来都市計画」を策定しており、その中の一つに、札幌市内において持続可能な消費形態を確保すること、つまり、先進国の消費が、できる限り途上国の人たちの生活に悪影響をもたらさないようにしながら、持続可能な社会を構築することを目標としています。札幌市のフェアトレードタウン認定は、上記目標を達成するための重要な取り組みの1つに位置付けられており、2019年6月に認定されました。
私の所属する環境局は、SDGs未来都市の担当として、SDGsを推進していますが、途上国支援も含めた国際協力や国際交流などは国際部が担当しており、フェアトレード推進も国際部が所管になっています。
「課題は認知度の低さや商品の少なさだと思います。」
Q3. Q2の質問に関連して、事業でフェアトレード推進活動を行う上での課題や問題点はありますか。
佐竹さん:札幌市としてフェアトレードを推進する上での課題はさほどありませんが、やはり一般市民の認知度の低さや商品の種類の少なさ(それによる買い物時の選択肢不足)などが課題であると思います。改善するためには、商品を扱うお店を増やしたりしながら、認知度を高めていくしかないので、札幌市としても、様々なアプローチで認知度向上のために励んでいます。
「若い世代の動きが大人の意識を変える」
Q4. 我々のプロジェクトに賛同いただいた理由をお聞かせください。
佐竹さん:若い世代の取り組みを応援したいと思ったからです。フェアトレードに限らず、環境局が推進しているSDGsや気候変動問題の解決には、中学、高校、大学生の動きがとても重要になると思っています。例えば、スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが気候変更対策に対するデモ活動を1人で始めました。その活動が若い人たちの共感を呼び、世界に広がって何百万人という人々が毎週金曜日に「Fridays for future」というデモ活動をしています。そういった動きが大人の意識を変え、実際に企業や各国が気候変動対策に取り組む必要性を感じ、今、すごい速さで取り組みが進みつつあります。ですので、札幌市としても、私自身も若い人たちの取り組みを応援していきたいです。
Q5. 「さっぽろ ゆめ結晶」に期待していることがあれば、お聞かせください。
佐竹さん:フェアトレードの認知度向上につながることを期待しています。先ほどお話した若者の活動にもつながりますが、大人が何かやるというのではなく、大学生のサークルでフェアトレードの商品を開発する、そしてそれを広めていくということは、話題になりますし、フェアトレードを知ってもらうきっかけになると思います。そういうことを、「さっぽろ ゆめ結晶」、そして皆さんに期待しています。
「“誰一人取り残されない社会”の実現を目指しています。」
Q6. フェアトレードを通じて、どんな社会や世界になることを望んでいますか。
佐竹さん:SDGsの理念である「誰一人取り残されない社会(No one will be left behind)」の実現が大事だと思っています。自分たちだけではなく、途上国の人たちや、弱い立場にある人、年配の方、障がいを持つ方たち、そして、次の世代の子供たちやその次の世代も取り残されない社会を作っていかなければならない。もちろん、フェアトレードだけで実現するものではないですが、この理念が根本になると思っていますので、誰一人取り残されない社会や世界が実現すると良いなと思います。
※以下からは、学生からの質疑応答と意見交流の様子を抜粋してお届けします!
「どこにお金が落ちるかを考えて商品を選択すべき」
学生:コロナ禍で輸入が制限されてくる中で、フェアトレードのあり方は変わってくると思うのですが、佐竹さんはどう思われますか。
佐竹さん:日本で採れない生産物(カカオやコーヒーなど)を買うときは、フェアトレードや生産者に配慮した商品を購入すべきだとは思いますが、普段から購入する野菜や肉などは、どこにお金が落ちるのかを考えて購入すべきだと思います。
例えば、玉ねぎを購入するとき、北海道産のものと本州産のものが売っているとします。そのときどちらを購入するかを考えた際、私は北海道産のものを購入して地元に貢献したいと感じますし、また、仮に本州から商品を北海道に持ってくるには、輸送費や輸送エネルギー、CO2も発生するので、そういうことにも配慮しながら商品を購入するべきではないでしょうか。
理想としては、北海道で必要なものは北海道で生産されたものだけで成り立つような消費のあり方がよいと思っています。
学生:我々は、フェアトレードを周知することに重きを置いて活動しているのですが、それ以外にすべきことは何だと思われますか。
佐竹さん:野菜とかなら、北海道産と書いてあるからそれを買おうというようにわかりやすいのですが、例えば、お菓子や水の場合、何を判断基準にして商品を選ぶべきなのか難しいと思います。
そういったときに参考にしてほしいのが、メーカーのCSRレポートや環境報告書です。大手企業だと大体発行しているので、そういうものを読んで応援したい企業の商品を買うのでもいいですし、知ったことをみんなで共有してみるのも大事だと思います。
また、その商品がどういうものなのかを調べるのも重要です。例えば、コカ・コーラが出している「い・ろ・は・す」は、販売地域によって水の産地が異なっており、北海道では、清田区の白旗山の地下水を汲み上げて生産されています。そこで、北海道コカ・コーラボトリングは、水の源泉である白旗山の環境が壊れるとおいしい水が採れなくなるということで、白旗山の保全、植樹をして環境を守る活動を行ってきました。今は、そのペットボトルもすべて再生ペットボトルになり、そのおかげで新たに石油を使う必要がなくなったのです。
このような企業活動を案外知らないこともあるので、商品にどのようなストーリーや価値があるのかということを気が向いたときに調べてみて、共有してみるということもいいと思います。
「やりがいは、社会を変えていく仕掛けを考えること」
学生:普段の仕事のやりがいや面白さは何でしょうか。
佐竹さん:私は08年から今の部署で温暖化対策に携わり、15年からはSDGsも推進していますが、当時、環境教育を担当し、子どもたちに環境の大切さなどを教える活動をしていました。子どもたちは素直なので、節水や節電を積極的に行ってくれましたが、そもそも地球温暖化を招いたのははたして誰なのかということを考えると、大人たちです。なのに、子どもたちだけに教育するのはどうなのかとも思いますが、小学生の息子や娘さんに「お父さん、電気つけっぱなしにしないで」と言われれば、お父さんも節電を心がけるように、子どもたちの姿を見て、大人たちが変わることも多いので、子どもたちへの教育はやはり大事だと思います。
そんな中で、どんなことを教えてくれれば、どういう風に行動が変わっていくかに関心を持っていまして、今は、SDGsが話題になって、多くの企業がSDGsに取り組むようになり少しずつ社会の意識が変わってきています。そういう行動をどのように仕掛けていくかということを考えるのが、この仕事のやりがいです。自分の仕掛けで、企業や人が変わっていくのを見ると、この仕事は結構面白いなと感じます。
「自分の興味を活かして、持続可能な世の中をつくる」
佐竹さん:学生の皆さんは、将来の仕事や生活を考えた際、どういう仕事や生活、個人活動をしていきたいと考えていますか。
学生(多田):どういう職業かというのはあまりとらわれずに、自分の軸をどこに置くかをしっかり定めていきたいと思っています。自分の納得いくやり方で働きたいですし、大前提として悪い人になりたくないというか、どんな企業に就職しても、良心は捨てずに働きたいです。それは、今までのフェアトレード活動を通じても感じましたし、やはり利益のみを追求する企業や仕事は避けたい。少しでも社会や人に貢献できる仕事ができればと思います。
学生(三浦):いずれは、佐竹さんや橋長先生が参加されている戦略会議のようなところで社会貢献の活動ができればと思いますが、そこに行くまでは経験や知識も必要だと思います。なので、まずは、自分の利益を優先して、金銭的にも余裕が出てきてから、社会に恩返ししていきたいです。
学生(古山):自分が就きたい職業は決まっていないのですが、小学生のときから人を笑顔する、人を助ける仕事をしたいと考えていました。その延長戦上でフェアトレードに出会い、考え方が広がり、変化したと思います。これからどんな仕事に就くとしても、誰かのためにということを意識しつつ、自分の消費行動も考えながら過ごすことができたらいいなと思っています。
佐竹さん:いろんな大学生と話をすると、「自分の軸をどこに持つか」ということに悩んでいる人もいて、自分の場合は環境問題に関心を持ちながら、持続可能な社会に貢献していこうと10数年仕事をしてきたのですが、その興味関心はもちろん人それぞれです。ジェンダー平等に関心があってそれにずっと取り組む人もいれば、子どもの貧困対策、途上国支援、教育など、本当にさまざまだと思います。
それぞれ自分の興味が深いところを中心にして、持続可能な世の中をつくっていこうという動きができるといいのではないでしょうか。
消費という観点で言うと、自分がモノを買うときに、このモノはどこから作られたのだろうか、また、行き先はどこへいくのだろうかということを少しずつ考えながら生活をしていると、視野が広がって想像力が働くようになると思います。そういったことを考えながら毎日の生活を送っていくのがいいのではないでしょうか。
学生の感想
三浦:佐竹さんのインタビューを聞いて生産者と同じ立場に立ち、同じ方向を向いて活動をすることがいかに重要かわかりました。生産国が抱えている問題や現状について情報を集めることの重要性を感じ、また、同時に自分の情報収集能力を高める必要があると思います。
古山:佐竹さんのお話を聞かせていただいて、たくさんのことを考えられたとても有意義な時間だったと思います。現在、学生にFTを周知している身として、どうやっていち早く周知すればいいのかが近い目標であると思い込んでいて悩んでいましたが、FTを周知し続け、考え、後継者へ思いを伝えていく大事さを学びました。SDGsを通じて、環境や貧富の格差、ジェンダーの格差などこれからの未来でも続く問題であると思うので、若者がどう行動していくかがカギであると改めて実感しました。まだまだ学ぶことができる私たちが率先して学び、学生としてできることをしていきたいと思います。
多田:佐竹さんには何度かお会いしたことがありましたが、今回の取材ではじめて、その人となりを深く知ることができました。環境問題を専門にする佐竹さんならではの視点からさまざまなお話を聞くことができ、サークルとしても個人としても、得るものがたくさんあったと思います。特に、「地球温暖化問題は、深刻化してきた近年になってようやく人々の関心が高まってきた」という話(記事からは割愛させていただきました)は、とても考えさせられる内容でした。事態が深刻化してから気づくというのは悲しいですが、そんな今だからこそ、サークルとしてはより一層フェアトレード周知に力を入れ、自分自身も、もっと地球上や身の回りで起こっている問題について考えなければならないと感じます。
佐竹さん、今回はありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします!
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