「さっぽろゆめ結晶」の原材料である旭川の黒米の生産者視察は、当初6月の田植えの時期に訪問する予定であったが、新型コロナウィルスの影響により、秋に延期し、2020年9月25日(金)10:00-12:30に、上森米穀店の鳥越弘嗣様、生産者の平農園を視察し、ヒアリング調査を実施した。
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<上森米穀店 鳥越弘嗣様のヒアリング内容>
学生:まずは、上森米穀店について教えてください。
鳥越様:創業昭和20年で私が3代目で、事業を継いで10年になります。先代から黒米(古代米)や赤米、無農薬の玄米などを引き継いでいます。お米の成り立ちは、黒米か赤米が原種じゃないかと言われています。黒米に関しては、中国から伝わったと言われるお米で、隣町深川の拓殖大学の教授とのご縁から、寒冷地の北海道でも栽培できる「きたのむらさき種」(北海道産谷根餅×中国産黒米)の栽培が可能となりました(約30年前)。北海道でしか作れない黒米です。北海道は1年を通じ、本州と比較して日照時間が短いので、北海道の気候にあわせた品種が誕生しました。人との繋がりから約20年前に大雪山の麓で農業を営む農家さんらと「上川地方黒米流通組合」を結成し、品質の高い黒米生産に努めました。試験栽培を5年くらいかけたのち、5軒の農家さんとで黒米を作ることになりました。そうして全国的に販売を開始したのが約20年前です。黒米を中心にしつつも、黒米は加工しやすい特徴から多くの加工商品の商品開発をしてきました。流通量は年間6~10トン。例えば、黒米10トンのうち1トン程がカラー選別機ではじかれます。規格外品を無駄にしないように粉末にし、もちもちの歯ごたえとなる黒米うどん(道産小麦使用、下川で手延べ)・黒米パスタ(ライスパスタ、グルテンフリー、ロング普通サイズとショートパスタの2種類)・大雪山の山々をイメージとしたお山大福・黒米茶(ノンカフェイン)・黒米アイス(旭川市フレンチシェフと開発)などを加工商品として販売しています。黒米うどんは主に札幌市のホテルや旭川市内の飲食店、人気の黒米パスタは東京や京都などへの流通量がとても多いです。さらに、コンビニ大福のように日持ちをよくするために添加物を使用するのが一般的になっていますが、お山大福は無添加(もち米、黒米、小豆のみ)のため長期間は持ちませんが、製造してすぐに冷凍することにより安心して食べれるのが特徴です(冷凍賞味期限2ヶ月、解凍賞味期限1~2日)。
学生:商品開発のアイディアはどのように生まれるのですか。
鳥越様:自分だけでは難しいので、色々な人との出会いや会話からです。北海道庁主催のフード塾に参加していて、200人ほどの塾生がいます。エシカル・タイムの村上さんともそこで出会いました。「さっぽろゆめ結晶」の商品では、黒米を「どん」*にしてみたら面白いのではないかという話になりました。どんに加工してもらったのも人伝で、函館知内町やごし本舗(有名商品=ドンデマカロニ)にお願いしました。自分とは違った業種のプロの方々と協力して商品開発することで、その道のプロの技術で素晴らしい商品ができ、設備投資も抑えられるため、お互いメリットがあると思っております。
学生:どんを使った商品で、現在考案しているものはありますか。
鳥越様:普通じゃ面白くないので、どんを使ったペットフードを考えています。近年、食べ物が原因で病気になり亡くなってしまうペットが増えています。雑穀をやわらかくしたものをワンちゃんに食べさせたら、歩けなかったワンちゃんが歩けるようになった事例もあります。黒米には、ポリフェノールやアントシアニン、ビタミン、鉄分、食物繊維、カリウムが含まれています。それらが人間もそうですが、ペットの病気を防ぐことが出来ると考えています。
*どん=黒っぽいのが黒米、赤米、無農薬玄米、もち麦、小さくて丸いのがもちきび
先生:近年の日本人は米離れしていると言われていますが、どのように感じていますか。
鳥越様:日本人はやっぱりお米とお味噌汁で育ってきた文化。今はパンとコーヒー。朝からご飯とお味噌汁をちゃんと食べると、朝の基礎体温も上がりますし、抵抗力もつきます。そうすると、色んな病気にもならないです。私は毎日、朝昼晩食べているのでとても健康です。日本全国が米離れの風潮がありますし、僕らが育った時代から給食がパンと牛乳で不思議にも思わないで育ってきてしまいました。今考えるとすごく不思議で、これだけお米が取れている国なのになぜご飯が出ないのかと思います。旭川市内
の保育園で子ども達やご両親と一緒に田植えや稲刈りなどお米の食育を行っています。その保育園の食事は、毎日ご飯とお味噌汁です。パンはおやつという位置づけです。雑穀なども食べてもらっていますがそれが普通と思っております。小さいことですが、子ども達に小さい頃からお米を食べてほしいということを一つずつやっていこうと思っております。
先生:雑穀を食べるなどの健康志向のニーズは上がってきていますか。
鳥越様:どんどん上がってきています。雑穀市場は伸び市場。白米の市場は下がってきています。昔に比べれば、10倍ほどになっていると思います。単価は比較的に高価だと思いますが、白米に対して1割くらいの使用の為、そんなに高くないです。食感があることからよく噛めることや栄養価が高いという認知も広がってきて、飲食店でも白米か雑穀を選べるようになってきていると思います。女性は雑穀にすることが多いかと思いますが、ぜひ育ちざかりの子ども達や男性にも食べてほしいです。体力をつけるには食が大切です。黒い皮が良い!さらに、家でも当たり前に食べられるようになってほしいです。毎日じゃなくてもいいので、今日は黒米にしようかな、色々な料理に合わせて雑穀にしてみようかなと取り入れてほしいです。
鳥越様:お米屋さんはなぜあるのかとある子どもに尋ねられたことがあり米屋の存在意義を考えてみたのですが、上森米穀店は専用米を扱っています。ホテルや旅館、日本料理店など、それぞれのお店が使いたいものをブレンドしています。一般的なお米の袋には小さな穴が開いているのですが、うちのお米は真空パックにして酸化しにくくしています。災害や新型コロナウィルスの影響から真空パックに対する全国のニーズが増えました。米屋は様々なニーズにあったお米を提供し、流通するためにあると思います。
先生:私たちの「さっぽろゆめ結晶」は、海外のヴィーガンやベジタリアン・無添加などにもこだわり開発したのですが、このようなニーズはあると思いますか。
鳥越様:どんどん増えてきています。近年玄米のニーズがとても増えております。海外の方々もヴィーガンやベジタリアンの方々がとても多いようです。今求められているのは、素材を重視して、添加物をできるだけ含まないように、海外の方々も安心して食べていただける商品だと思っております。
先生:温暖化が与える影響はありますか。
鳥越様:あります。北海道は寒くてなかなか良いお米が取れなかったのが、すごく美味しいお米が取れるようになりました。逆に九州地方ではお米は取れるが、寒暖差が少なく美味しいお米を作るのが難しくなっています。北海道は寒さに強いお米、九州地方では暑さに強いお米を作っています。北海道はこれから第一次生産が世界でも有数の街になると思います。お酒の酒蔵が本州から移転してきたり、ワインのぶどう生産に適した場所(函館、余市、仁木、富良野、名寄など)で、移住者も増えてきて、さらに盛り上がると思います。
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<上川地方黒米生産流通組合生産者 平克洋様・隆之介様のヒアリング内容>
学生:黒米を作るにあたって、大変なことは何ですか。
平様:収穫量が取れない事です。黒米は、暑さには強いお米なのですが、北海道は寒いのでその中で作れる黒米の品種は「きたのむらさき」しかないです。最近、温暖化の影響かもしれませんが、暖かい年が多いので、作りやすくなっていますが、昔作り始めた頃は寒い年もあったので、平農園では3~4俵、取れる農家さんでは6俵ほど収穫できます。年によっては全く取れないなど収穫量が無ければその分の対価はもらえません。そのリスクを背負いながらやるということが大変なことかなと思います。
学生:災害などで、あまり取れない時期があったらどうするのですか。
平様:それはもちろん自己責任です。ある程度は、国が助けてくれますが、取れなかった分補充しますよということにはならないので、作るリスクは普通のお米よりは高いと思います。
学生:なぜ黒米を作り始めたのですか。
平様:深川の拓殖短期大学に通っていた時に、たまたまゼミの教授が係わっていたのが、この「きたのむらさき」という黒米でした。学生の時に、趣味で作ってみようと思いました。改めて機械から何まで用意するというのは大変なので、作りやすく珍しい黒米を教授のご縁もあり作り始めたのがきっかけです。
学生:それはなぜ続けられるのですか。
平様:やめるにやめられないです。やってきて自分が作って、上森米穀店で販売してもらうということに繋がっていって、生産者は作らないと売れないし、良いものを作れば高く売れるかもしれないし、この皆さんとやる商品開発もその一環です。いかに、販路を広げていくか、利用価値、付加価値を高めるかということです。趣味が半分です。これは儲かるな!というところまでつながっている訳ではないし、いっぱい収穫できる人と比べると半分くらいの収入にしかなっていません。品質向上を狙って、収穫量を抑えているということが1番かと思います。良いものを作らないと、いくら売って歩いても、いらないよと言われたら、上森米穀店でも商売できないし、自分自身も面白くないですしね。ただ、こういう風になるだろうと狙ってやってみるが気持ちよく結果が出ないです。
学生:より良いものを作るために何か工夫されていることはありますか。
平様:使う肥料を変えてみたり、田植えの時期を遅くしてみたり、収穫の時期をずらしてみたりしています。作る田んぼを変えるということは、リスクしかないと考えていて、作っている生産グループのメンバーとの中で面積をいっぱい作れる年もあれば、過剰に生産しても余ってしまってはなんの意味もないので、余らないように生産調整をしながらやっていった結果ここに至ります。鳥越さんの意向もあり、景色が良いところがいいなと思い、この大雪山の山々に囲まれている立地でやっています。旭川は上川盆地で山に囲まれていますが、このような場所は札幌にはないと思います。山が見えるというのはこの地の1つの利点かなと思っています。その反面、土は粘度系の土なので作物を作るという意味では決して条件の良い土壌ではないです。
学生:今後黒米のシェアがどうなっていくのが理想ですか。
平様:急激に売れないで、じんわり売れてくれれば作る方も調整しやすくリスクが少ないです。1番怖いのは、マスコミの影響です。売れることは良いことですが、それが継続しないと全く意味がないです。鳥越さんが倒れてしまえば、黒米も土に帰ってもらうしかなくて、消費できないものは廃棄処分になってしまいます。作ったものは良いときに食べてもらうのが1番理想なのかなと思います。
鳥越様:生産者は今5人いるのですが、西神楽、東神楽、東川、東旭川、永山の旭川近郊で5件。その中でも平さんの黒米は1番立派です。粒張りが良くて、粒光しています。ダメな時はダメだと言います。はっきり言ったほうが、お互いに良いです。
平様:それで何が悪かったのかというのを考えるのも方法だし、何も変えないというのも1つの方法です。
先生:消費者がお米を食べる時にどういうことに気付いてほしいなと思って作っていますか。
平様:流通の段階でブレンドされているので、あの人のお米というのを感じなくなってしまうと思います。後は、お米がどのようにできているのか知らないということかと思います。根本的にそこだと思います。知らないが故に、どういうことをしてお米になっているのか、子どもたちの田植え体験を引き受けている理由として、少なくともここに来た子どもたちは田植えを知っているということが大事だと思います。田んぼに稲を植えて、命を食べているということを感じることに繋がっていくと思っています。
鳥越様:黒米は食べれるし、黒米が種にもなってまた黒米になるんです。毎年同じく連作しても問題ないということはすごいことです。
平様:お米の1番の魅力は、食べ飽きないことです。365日毎食食べたって飽きないと思います。お米は不思議と飽きないです。食べ過ぎなければ、体にも良いので、お米を食べすぎるから太るというのはうそです。女性もちゃんと食べて糖質を取らないといけないです。
先生:今回作ったお菓子の1番の目的としては海外で苦しんでいる生産者を助けるお菓子のシンボルになりたいということなのですが、今後、このお菓子をどういう人達に食べてもらいたいと思いますか。
鳥越様:「さっぽろゆめ結晶」は、黒米を知ってもらう一つのきっかけになると思います。このお菓子には、黒米のどんが入っていて、さらに元を辿れば、この黒米はこういうものなんだと気づいてもらえるツール、きっかけになると思います。
平様:きっかけは大事ですよね。知ってもらうことで、この生産者は他に何を作っているのか関心を持ってもらい、私たちが生産しているお米を買ってもらえるきっかけになればありがたいです。
先生:findHで全国の898人から「いいね!」をいただきました。
鳥越様:約900人が見て、こうやって取材受けて、Webサイトにアップして、またその900人が興味を持ってくれれば、また人に話して2倍3倍になっていくと思うので、どんどん広がるかと思います。皆さんも今日こうして生産現場に来てくれて、黒米の実態を知ってくれたので、興味を持って黒米食べてみようと思ってくれたと思います。まずは、そこの一歩で良いと思います。
平様:何年やってもまだその一歩です。今、20年近くやっていますけど、そこから抜けられないというか、興味が薄れていくというか・・・健康的なものも含めて日本人は特に一過性で、知名度より先に押されてしまいます。作っている生産者がわかるというのも一つの良さだと思います。もう少し頑張ってアピールしていかなければならないと思います。
先生:生産者様からみて、今の日本人の食の傾向で不安に感じていることはありますか。
平様:お米を食べないということです。少子高齢化の影響からもお米の消費が減ってきています。その反面、外食産業ではお米が廃棄されてしまっている現状もあります。
先生:海外で売っていくというお考えはおありですか。
平様:自分自身は、それはそれでありだとは思います。ですが、そもそも国内の食品の自給率が40%で伸び悩んでいるので、それを考えたときに果たして海外を相手にするところなのかという気持ちもあります。ただ、儲かるということになれば出せるなら出してもいいなというのが切実です。儲けがすべてではないので、継続して農家をしていければ良いなと思います。この問題は、一人で考えどうなることでもなく、難しいです。ただ、「食べてください」としか言いようがないです。お米だけを作っているわけではなくて、国の政策に便乗し大豆や小麦も作っています。お米だけでは、成り立ちません。また、やはり少子化が大きいです。子どもの数が少ないから一般家庭での消費率が低い。パンの単価とお米の単価を比べれば、パンの方が3倍も高いのですが。
平様:黒米は、色がつくので目で楽しめ、香りも味ももちろん楽しめます。このようにはっきり色のつく食べ物はあまりないと思います。食品添加物ではなく、お米そのものに色がつく黒米はかなり価値があります。個人個人の趣味嗜好があるので、ご飯としては食べてくれないかもしれないけど、お菓子としては受け入れてくれるというところに常々期待はしています。色んな利用価値が増えれば、商品の必要性も上がってきます。1番最後に作り続けて良かったなあ!と思えれば1番良いです。まだ、「自分の恩師に対して俺は作ってるんだぞ!」という気持ちの方が強いです。やってて何も残せないのは淋しいので、何かの形で残せれば良いと思っています。「黒米の全部を北海道産にしてやるぞ!」という意気込みでやっていかなくてはならないと思います。
鳥越様:将来的な目標として、カレーライスのご飯=黒米ご飯にしたいと考えています。黒米は油を吸収してくれる力があります。北海道のカレーライスは、カレー+黒米ご飯という文化にしたい。そのことを当たり前にしたいです。カレーと黒米はすごく合うんです。
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上記の通り、黒米に対する生産者、販売者の熱い思いを伺った。改めて、黒米の栄養価の高さ、様々な調理や加工への適性を学ぶことができた。なにより、生産者が自然環境の影響を受けながら苦労して生産調整をしながら作っていることや、販売者が顧客や調理方法に最適なブレンド米に仕上げる技術や商品開発のアイディアを学ぶことができた。
当日は、地元の保育園児と共に稲刈り体験もさせて頂き、稲架がけの準備も行った。一束お土産として頂いたので、大学で2週間、天日干しした上で、脱穀、籾すりをして、「さっぽろゆめ結晶」にぎりにして皆で実食した。黒米の味は、白米より甘みがあり、古代米として中国では、2000年前から栽培されていて、日本には、縄文・弥生時代に伝来した。また、黒米は白米より、鉄分・カルシウム・リンが非常に多く、ビタミンB1、B2も多いため、骨粗鬆症・貧血症・妊産婦
の方の健康増進食として最適な米である。白米1号にスプーン1杯の黒米を混ぜると紫色のご飯に炊き上がり、昔は赤飯として食されてきた。この紫色がアントシアニン色素で抗酸化物質である。動脈硬化・心筋梗塞・糖尿病・老化などの原因となる活性酸素を取り除く作用があると言われている(上森米穀店Webサイト「黒米『きたのむらさき』http://www.himiko21.com/himiko.htmlより引用」。
実際に、黒米を食して見て、学生は、自分たちの開発した商品の生産・流通・消費の一連の流れを学び、食の恵みを噛みしめていた。
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